カルナータカ音楽概要



                                                                                                               
                                                                  M.S.Subbulakshmi 国連ライヴ 1966年



 カルナータカ音楽は南インドの古典音楽(クラシック音楽)である。これは基本的に、ヒンドゥー教に基づく宗教賛歌である。
 ここで言う「南インド」とは、インドの南部に位置するアーンドラ・プラディーシュ州、カルナータカ州、タミルナードゥ州、ケーララ州の4州を指す。「古典音楽」と「民俗音楽」との厳密な線引きは難しいがいずれにせよ、カルナータカ音楽はこの地方で育まれ、系統だった理論と美学に基づき発展し、親しまれてきた音楽である。北インドの古典音楽・ヒンドゥスターニー音楽は、8世紀から始まったイスラム文化の流入に影響を受けながら、王宮の庇護のもと独自の発展を遂げたが、カルナータカ音楽はこれに対し、元来のインドの伝統を色濃く残している。

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 インド音楽史は一般に、紀元前1000〜500年頃に編纂された「ヴェーダ」と呼ばれる宗教文書から語りおこされる。これは紀元前1500年頃からインド亜大陸に進入したアーリア人の思想を集大成したものでありインド哲学の源流と言われている。これは基本的に音声によって唱えることによってはじめて意味をなし、寺院内で口承によって現在にまで受け継がれてきた。このなかでもっとも音楽的であるとされる「サーマ・ヴェーダ」の詠唱がインド音楽の精神的な源流とされるが、実際に古典音楽において、具体的に現代につながる最古の記録は、聖仙バラタによって編纂されたとされる「ナーティヤ・シャーストラ(演劇規範書)」(この成立年代は紀元前5世紀頃から紀元後8世紀頃と異論が多い)である。このなかに、旋法やリズム理論についての記述が認められる。また、現在インドで「音楽」を指す”SANGEETA”という語は本来、声楽、器楽、舞踏を含む包括的なパフォーミング芸能を指しており、音楽は演劇の一部として認識されていた。

 7世紀初頭にアラビア半島でイスラム教が興るころ、南インドでは、バクティ運動というかたちで、秘教化していたヒンドゥー教が一般民衆のあいだで開花する。バクティは神への絶対的帰依を意味し、民衆は日常においても信仰を実践した。これに伴って、各地に次々と寺院が建立され、聖者たちは歌い踊りながら布教に努めた。そのなかで音楽的な貢献度の高い人たちは、今日においても「楽聖」として、人々から尊敬を集めている。つまり、宗教と音楽は密接に結びつきながら発展し、拡大してきたのである。
 時が経ち、18世紀に現タミルナードゥ州のティルヴァールールに生まれたSyama Sastry、Tyagaraja、Muthuswami Dikshitharの3人は「3楽聖」と呼ばれており、特に重要である。彼らは音楽的な進歩という側面においても非常に大きな貢献をし、作品群は現在の演奏会でも好まれて演奏されている。西洋では大バッハが没し、モーツァルトが出現した時代である。

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 我々外国人が南インドを訪ね、生のカルナータカ音楽に接することはとても容易だ。寺院での祭事や結婚式などの式典では、ダブルリード属の「ナーガスワラム」と、片手にバチ、もう片手は指で打ち鳴らす両面太鼓「タヴィル」がけたたましい音量でカルナータカ音楽を演奏する。この演奏は日常的に、町のいたるとこで見かけることができる。もちろん、彼らの演奏は演奏会でも聴くことができる。
 一般的には、今日カルナータカ音楽はカッチェリと呼ばれる演奏会で鑑賞される。このとき、演奏会の主役はヴォーカルである(そもそもカルナータカ音楽は声楽曲である)。先人たちが作曲した曲を、即興を交えながらうたいあげる。この即興部分の内容によって、一曲は5分にも1時間にもなるわけだが、熱心なファンは幸福そうに、何時間でもそれにつきあう。手をたたきターラ(リズムサイクル)を数えながら、ラーガ(旋法)を言い当て、時折「サバーシュ!」(ブラヴォーと同じ)と掛け声をかける。カルナータカ音楽はまことに市民権を得ているのだ。
 ヴォーカルのかわりに器楽で演奏される場合、それは声楽を模倣して演奏される。代表格はリュート属の「ヴィーナ」と南インドスタイルの「ヴァイオリン」だ。ヴィーナは女神サラスヴァティーが手にしており、わが国に伝来し弁財天と琵琶になった。リズム伴奏は両面太鼓の「ムリダンガム」がリードし、トカゲ皮のタンバリン「カンジーラ」、素焼きの壷「ガタム」、そして鉄製口琴「モールシン」がそれに追随する。彼らの超絶技巧は驚異的なものがあり、観るものを釘付けにする。また、4〜5弦のハープ「タンブーラ」が基音と完全5度(または完全4度)のドローンを提供し、この上なく美しい、独特な音響世界を演出する。

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 タミルナードゥ州州都・チェンナイでは12月から1月にかけて、ミュージックシーズンと呼ばれる国民的行事が開催される。この時期、チェンナイ中のコンサートホールで、朝から晩まで、数え切れないほどの演奏会や古典舞踊プログラムが開かれる。内容はトップアーティストのものから子供の発表会までよりどりみどりだ。また1月には、先述の楽聖、ティヤガラージャの慰霊祭「ティヤガラージャ・アーラーダナー」がティルヴァイヤールで6日間にわたり開催され、まさに早朝から深夜まで、ティヤガラージャの作品群が南インド中のミュージシャンによって演奏される。もちろんこれら以外にも、南インドには充実したカルナータカ音楽の企画はたくさんあり、音楽ファンに非常に魅力的で刺激的な体験をさせてくれる。また、積極的な好奇心をもって参加するリスナーには、抱いていた疑問に対する回答と、新たなる設問を常に投げかけてくれる。これを逃す手はない。


                                                                                                                                                                                 












                














       
                  3楽聖
            (左からMuthuswami Dikshithar、
               Tyagaraja、Syama Sastry)
   
     
               タヴィルとナーガスワラム

        
           ヴィーナ                ヴァイオリン

                                ムリダンガム                 カンジーラ

                    
             ガタム                     タンブーラ

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by      Koichi Takehara <MORSING player>       Disciple of PADMASHRI T.H.VIKKU VINAYAKRAM.